幹細胞による視力回復の可能性

化学薬品などで火傷し、片目または両目の視力を喪失した患者112人中、3/4 超が自分の眼から健康な 幹細胞 を移植することによって視力の回復に成功したことがイタリアの科学者から発表されました。今回の研究は、1998~2006 に実施された幹細胞による角膜移植の成果について報告されています。移植した 角膜 は、患者本人の比較的損傷の少ない黒目と白目の間付近から摘出した幹細胞が使われました。研究者によれば、極微量でも健康な角膜縁が残っていれば健康な角膜を再生することが可能で、摘出した幹細胞は2週間程度で角膜へ成長するそうです。 幹細胞とは、ある細胞に変化するようにという指示を受けると特定の細胞に分化する能力を持っている細胞です。また、変化を遂げる前の未分化の状態で長期間にわたって自らを複製、再生する能力も備えています。胚からは胚性幹細胞(ES 細胞)、成人からは成体幹細胞、胎児からは胚生殖細胞を採り出すことができます。今回、研究の対象となったのは 成体幹細胞 です。成体幹細胞とは体の中に既に形づくられた組織の中から採り出される分化する前の状態の細胞を言います。組織内には、その組織における特定の働きを担う、すでに分化を終えた細胞が多数存在しているのですが、中にはそうした特定の働きを持つ細胞へと分化する前の未分化細胞、すなわち 幹細胞 が混じって存在しています。成体幹細胞は、自らと同じ細胞を複製し、製造する能力を持つとともに、分化によって、それが存在していた組織内のあらゆる個別細胞を作り出すことができます。特定の組織に分化することが分かっているため、既に多くの治療に生かされ、白血病などの治療に必要な骨髄移植に用いられる骨髄幹細胞などが代表的です。成体幹細胞は、骨髄や血液、目の角膜や網膜、肝臓、皮膚などで見つかっており、最近では、脳や心臓など、従来は幹細胞が存在しないのではと思われていた場所でも確認されています。また、骨髄の中にある 間葉幹細胞 と呼ばれる幹細胞は、自らがいた組織の細胞である骨髄細胞だけでなく、筋肉細胞や骨細胞など他の種類の細胞へも分化することが可能であることも明らかになっています。自らの体から採り出した 成体幹細胞 の治療への応用は免疫的な拒絶反応の問題を心配する必要がなく、ES 細胞 を利用するときのように拒絶反応を起こさせないための操作が不要なため、現実的な治療の方法として活躍の場が広がっています。
